第9回(2002.06.22) 
プロジェクトマネージャーの権限について
 

  今回はプロジェクトマネージャーの権限について考えてみたい.今回の話はいつもと視点を変えて,プロジェクトマネージャーの立場からではなく,経営者の立場で考えてみる.
 プロジェクトマネージャーの権限というのは分かったようで分からないところがある.プロジェクトマネージャーのミッションは,プロジェクトにおいて,最初から最後までプロジェクト全体を統括し,リードしていくことである.これははっきりしている.ところが,このようなミッションにもかかわらず,プロジェクトメンバーを出しているラインのマネージャーとの調整がうまくいかないことが多い.必要な人材をプロジェクトに出してもらえない,他のプロジェクトとの関係でプロジェクトメンバーの交代を余儀なくされる,メンバーのプロジェクトでの稼動時間を制約されるなどはよくあることであろう.最悪の場合,ラインのマネージャーとの調整のためにプロジェクトのかなりの時間を割かなくてはならないような事態に陥る.
 これは,プロジェクトとラインの関係が不明確なために起こる問題である.言い換えるとプロジェクトマネージャーに与える「権限」が不明瞭なところにある.ところが,この権限というの問題はやっかいな問題で一筋縄ではいかない.
 例えば経営革新プロジェクトを実施するとしよう.もちろん,全社をあげて行う活動である.このような場合には,プロジェクトマネージャーは社長と同じくらいの権限を持っていてもおかしくない.
 しかし,システムインテグレータ企業が実施する個別のシステムインテグレーションプロジェクトはどうであろう?すべてのプロジェクトマネージャーにそんな権限を与えていると,プロジェクトも企業も大混乱に陥るだろう.
 このような問題を解決するために最も手軽な方法はプロジェクトマネージャーの権限とライン上の権限を結びつけることである.それぞれのプロジェクトで必要な権限を持つ地位の人をプロジェクトマネージャーに据える.例えば,経営的な意思決定が重要なプロジェクトでは役員をプロジェクトマネージャーにする.このようにすればラインとプロジェクトの不用な調整はなくなるし,トップコミットメントが得られるという意味でも効果的である.これを下の階層までやるとマトリクス組織になり,システムインテグレータを始めとするプロジェクト業務主体の企業では一定の成果を上げている方法である.
 そういう認識の元で敢えてこのやり方に異議を挟んでみたい.プロジェクトマネジメントの本質は経営からプロジェクトへの「エンパワーメント」であると思うからだ.本来はトップでしかできない判断をプロジェクトという限定されたスコープの中で,トップ以外の人ができるようにする.これにより,企業としての能力がぐんと上がる.別の言葉でいえば自律的なチームができて初めてプロジェクトとして業務を遂行する意味があると思う.自律的なチームを構築する上で,経営トップの参加やラインの階層をそのまま持ち込むのは逆効果であるように思える.
 そのように考えるとプロジェクトチームを作るときのポイントは,マネジメント能力や専門能力に関する適材適所と,エンパワーメントだと考えるのが妥当だろう.
 しかし,だからプロジェクトマネージャーに無制限の権限を与えればよいということにはならない.あくまでもエンパワーメントであり,経営組織との整合性が取れた制度である必要がある.
 まず,何を持ってプロジェクトマネージャーの権限を設定すればよいかという問題がある.これにはいくつかの尺度が考えられると思う.一つは経営にとっての重要性である.プロジェクトが重要であればあるほど,多くの権限を与えるべきである.ここで注意しなくてはならないことは,プロジェクトの規模と重要性は単純には比例しないことである.二番目は緊急性である.緊急性が高ければ高いほど多くの権限を与えるべきである.三つ目は難易度である.難易度が高ければ高いほど多くの権限を与える必要がある.
 そして,これらの尺度に併せて,プロジェクトマネージャーにもグレードを設ける必要がある.その際に肝心なことが,プロジェクトであるので,ライン組織の能力とは無関係な評価視点で評価し,ライン組織の権限とは独立したグレードを設定することである.グレードの作り方はケースバイケースであるが,プロジェクトは,「先例がない」「計画が変わっていく」「終わりがある」といったライン業務にはない特徴がある.これらの特徴を反映したグレードが必要であることは間違いない.



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