| 真の プロダクトアウト戦略 |
第1回 マーケティングのディレンマ |
| 2003.07.02 日本総合研究所 伊藤 修 |
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| 企業戦略,あるいはマーケティングの最大の役割は,「顧客のニーズ」と「自社の強み」との間にある矛盾(ジレンマ)をいかに解決するかにある.これは,すなわち「マーケットインとプロダクトアウトの矛盾」をどのように解決するかということである. 顧客のニーズを知り,それを重視することは当然間違いではない.しかし,だからといって,時代はプロダクトアウトからマーケットインへと流れていると過度に単純化することは危険だ.プロダクトアウトは「悪」で,マーケットインだけが「善」であるという考えを真に受けてしまうと,競争力軽視につながるからだ. 競争力を失った企業は悲惨だ.見せかけだけの差別化と創意工夫やさまざまな努力という乏しい武器だけを手にして,デフレ経済と真っ向から戦わなければいけなくなる.価格競争という泥沼にはまり,利益を極限まで減らしていくしかなくなる. ●「真のプロダクトアウト」だけが,競争力を生む 現在の市場の動きは極めて速く,先が読みにくい.それに比べて競争力の蓄積には時間が必要であり,市場の変化がわかってからではまず追いつけない.だからこそ,市場のニーズに先んじて,プロダクトアウトにこだわる姿勢が重要なのである. マーケットインだけを頼りにすれば,後追いになるため市場に翻弄され,製品やサービスだけではなく,「企業そのもの」が消費されてしまいかねない.すなわち,企業は疲弊し,自信喪失に陥っていく.そして結局は,その顧客からも見捨てられる. 企業には常に,自社の強みに裏付けられたアイデンティティが必要なのだ.このアイデンティティにこだわってこそ,「自社にしかできない」プロダクトアウト,すなわち「真のプロダクトアウト」を実現することが可能になる. 「自社にできることだが,他社にもできること」,すなわち「自己満足のプロダクトアウト」あるいは「横並びのプロダクトアウト」では,短期間に新たな成熟市場を作り上げてしまうだけだ. ●「ジェットターン」に見るプロダクトアウト 顧客志向(マーケットイン)を越えたプロダクトアウトによるヒット商品の例としては,三洋電機が99年に発売した排気循環式の家庭用掃除機「ジェットターン」が挙げられる. 排気がほぼゼロのジェットターンは,「低価格が主力だった三洋電機の掃除機の平均単価を約3割,さらに高価格帯市場における同社の市場シェアを10%弱から30%強に押し上げるというめざましい成果をもたらした」(日経ビジネス,2000年10月30日号から引用).価格を上げて,シェアも上げる.まさに,これが「真のプロダクトアウト」の効果である. すでに典型的な成熟商品である掃除機市場において,ジェットターンがなぜ成功できたのか.その要因は,「勝てるニーズ」を選び取ったことである.顧客のニーズを知るだけでは,他社も容易に追随してくる.たとえ顧客のニーズを完璧に理解したとしても,勝てなければ,新たな赤字商品を生み出すだけなのだ. ●最初から「勝てるニーズ」を選ぶ ジェットターンが見事だったのは,主婦を対象に行った調査結果を,独自の視点で解釈したことである.「(要望上位の項目は)すでにニーズを満たしている」(同)として,5位の排気に目をつけた.同時に,その調査結果全体をにらんで,「他社とどう違いを打ち出すか」(同)という「勝てるニーズ」を検討したのである. まずニーズを見極めてから,次にそこで勝つためにはどうするかと考えたのでは当たり前すぎる.それでは,他社に勝つことはできない.これなら勝てるというニーズを,「最初から」選び取るのである.こうして導き出されたのが,「排気をゼロに近づける」(同)というジェットターンのコンセプトであった. しかし,「勝てるニーズ」というのは,簡単には実現できないニーズであることが多い.実際,ジェットターンのケースでも,三洋電機は「異例の開発期間延長を決断」(同)している.が,「勝てるニーズ」であるという自信があったからこそ,「1年待てば,強力な商品になる」(同)と,この技術にこだわりぬく覚悟ができたのだ. ●矛盾の中にこそ,ビジネスチャンスがある 現在は,市場のニーズを満たそうとすると,自社の強みが活かせない.自社の強みを活かそうとすると,顧客に受け入れられないという時代だ,そこでほとんどの企業人,特にマネジャークラスは思考がフリーズしてしまう.ところがその矛盾にこそ,ビジネスチャンスはあるということを知ってもらいたいのだ. 市場には,もう欲しいものなどない.だから,ただマーケットインといっても,よいアイデアは浮かばない.一方,今まで累々と積み上げてきた企業の強みなど,市場から無視されてしまう.だから,プロダクトアウトなど考えられない.とはいえ,企業は自社の強みを活かすしか生き残る方法がない.そんな矛盾に満ち満ちた世の中だからこそ,逆にビジネスチャンスがある. こうした当たり前のことが,今,語られるべき企業戦略,あるいはマーケティングの原理原則なのである.経営者にとって「大変だけれど,わかりやすい」,あるいは「がんばれば,いつかは報われる」といった,言わば「異常な」時代は終わった.現在のほうが,むしろ当たり前の時代なのだ. |
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