| エンジニア+αのための原書ガイド | 第1回 再考:『イノベーションのジレンマ』 |
| 2003.07.27 翔泳社 中村 理 |
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| 最近、MOTや技術経営というキーワードがマスコミなどでよく取り上げられるようになってきました。経済産業省が音頭を取って「技術経営プロフェッショナル・スクール」設立のため、大学や企業の協力を受けて、日本の技術経営のケース・ブックをつくるなどの動きもあります(http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002770/)。 しかし日本における本格的な研究はまだ始まったばかり。90年代IT分野で、ベンチャーを育成し、数多くの企業倒産やM&Aを経験し、その知見を大学にフィードバックしてきた欧米に比べると、これからです。 そこでここでは、欧米で刊行された書籍のうち、日本で技術を核にビジネスをしていく上で、読んでおきたい原書を紹介していくことにします。 さて、第1回目の今回は特別に、既に翻訳された本を紹介することにします。 『The Innovator's Dilemma』です。 ただし、この本はすでにかなりの方がお読みになっていると思うので、版権取得の舞台裏やその後の動きなども併せて、ご紹介することにしましょう。 ★ 優良企業が失敗するわけ(前半の紹介) まずは、本書の前半の論旨を限りなく簡単に紹介します。 本書の元となったのは、クレイトン・クリステンセン教授がハーバードビジネス・スクールの博士課程で描いた博士論文です(この論文、実は、アッターバックの『イノベーション・ダイナミクス』の中でも引用されています)。 「優秀な企業がなぜ失敗するのか?」を研究テーマとした彼が、最初に調査対象に選んだのはディスク・ドライブ業界でした。この業界では、14インチ、8インチ、5.25インチ、3.5インチと、ディスク・ドライブの大きさが徐々に小型化していきましたが、不思議なことに、14インチ→8インチ、8インチ→5.25インチ、5.25インチ→3.5インチと主力商品が交替するとき、それまでの主力メーカーはほぼすべて競争に敗れ、市場から消えていました。 当初彼は、失敗の原因は「技術」にあると考えますが、技術仕様と性能向上の関係性を詳しく分析した結果、根底にあるのは技術革新の速度や難しさではないという結論に達します。14インチ→8インチ、8インチ→5.25インチ、5.25インチ→3.5インチという小型化の波が押し寄せたとき、当時の主力メーカーはいずれも、小さなディスク・ドライブの開発は技術的に可能だったからです(実際に開発していました)。 当時、彼らが主要顧客から要求されていた要件は、1台あたりのハードディスク容量、1MBあたりのコスト、そして性能でした。しかし、そのいずれも小さなディスク・ドライブの方が劣っていて、しかも小型ディスクは単価が安いので粗利率も低い。「顧客はほしがっておらず、しかも儲からない技術にこだわる理由などない」と考えた既存メーカーの経営陣は、その技術を見限ります。 しかし、「その技術を使って何とかビジネスしたい」と必死の新興企業は、別の売り先を探します。その結果、8インチではミニコン、5.25インチではパソコン、3.5インチでは小型パソコンやラップトップ・パソコンという新たな市場を発見します。こ の新たな市場で、新たなディスクが採用されるに至った理由は、ディスク容量や性能ではなく、物理的な大きさや1台あたりの価格、つまり、これまでとは異なる基準でした。 さらに、安定供給先を確保した彼らは、徐々に、既存の性能基準である、ディスク容量や1MBあたりの価格やアクセス・タイムを向上させ、ついには上位市場も奪い、かつての主力メーカーを市場から追い落とすのです(以上のようなイノベーションを起こす技術のことを、クリステンセン教授は破壊的技術と呼んでいます)。 ディスク・ドライブ業界を例に、以上の現象を詳細に解説した後、掘削機業界、鉄鋼業界においても同様の現象が起こっていることを解説します。 以上から、クリステンセン教授が導き出した結論とは、業界を問わず、技術や市場の破壊的変化に直面した際には、顧客の意見に熱心に傾け、顧客が求める製品を増産し、性能改良のために新技術に積極的に投資するという優秀な企業の特性が、市場のリーダーシップを失う原因となりうるということです。 ★ 破壊的イノベーションへの対応(後半の簡単な紹介) 本書の後半では、このイノベーションに対してマネジメントはどう対処すればよいかが書かれています。後半の内容を紹介する前に、本書の基本概念である「破壊的技術」と「持続的技術」について簡単に整理しておきましょう。 破壊的技術とは、 ・既存顧客が求める性能とは異なる軸の性能(特性)を持っている。 ・そのため、当初は、既存顧客以外の層に受け入れられる。 ・新規顧客層を確保した後は、既存顧客の求める性能軸に沿って性能を向上させ、上位マーケットへ進出する。 ものです。一方、その技術革新が顧客の求める性能向上軸に沿っているものは、すべて持続的技術です。 そのため、破壊的技術は持続的技術と比較して、最終的な用途が事前には分からない、当初の市場規模は小さい、という特徴があります。また、優良企業の意思決定プロセスは顧客に大きく依存しているので、破壊的イノベーションは、持続的イノベーションとは異なる、マーケティング戦略的・組織戦略的・技術戦略的アプローチが必要となります。 こうした条件を踏まえると、破壊的イノベーションをマネジメントするためには、以下の原則を遵守する必要があることがわかります。 ・プロジェクトを、それが必要な顧客をもつ組織に任せる。 ・プロジェクトを、小さな勝利に前向きになれる組織に任せる。 ・試行錯誤しながら市場を探せるように、早い段階での大規模投資は避ける。 ・既存組織の業務プロセスや価値基準を適応しないようにする。 ・破壊的製品の特徴が評価される市場を見つけるか、開拓する。 以上の原則の正しさを、ホンダのスーパーカブやインテルのマイクロプロセッサ(試行錯誤しながら、市場を探した)、ソニーのトランジスタラジオ(特徴が評価される市場を見つける)といった例をあげながら解説していきます。 ★『イノベーションのジレンマ』の舞台裏 さて、本書の原書第1版が刊行されたのは、1997年のことですが、実は、発売して1年ほどは米国でも知る人ぞ知る本でした。爆発的に売れ出したのは、発売後1年経ったあたりで、その理由は2つ。1つはインテル会長のアンドリュー・グローブ氏が絶賛したこと、そしてもう1つはネットバブルで沸く米国で、ネットビジネスの経典的存在になったことです。 当時ネットベンチャーの経営者が投資家を説得する際に、「自社のビジネスモデルを既存のビジネスに対する「破壊的技術」である」と言っていたことは想像に難くありません。 一方、私が最初に本書をチェックしたのは、1999年の夏前頃。当時、『Customers.com』(Patricia Seybold)、『Permission Marketing』(Seth Godin)などの版権を取り、それらに続く第3弾として、ネットビジネス系の書籍を探していて、アマゾンでやたら評判の良い本書が気になりました。 原書を取り寄せて、ざっとあらすじを読んで思ったのは、本書は、ネットビジネスの分野に留まるべき存在ではなく、もっと大きな枠組みの中で捉えるべき本だ、ということです。 実際、本書が刊行された直後の頃には、日本でも、本書の議論の良いところ取りをして、破壊的技術という言葉を安易に自社のビジネスモデルに当てはめてしまっているれいが数多く見られました。しかし、本書の中でもいわれているように、本来、破壊的イノベーションとは、それほど頻繁に起こるものではありません。つい先日、本書の監訳者と話をした際も、最近の日本発の破壊的イノベーションとしてあげられるのは、インターネットに対するiモードくらいではないか、という話が出ていました (その意味で、クリステンセン教授がNTTドコモのアドバイザリーボードを勤めているのは、非常にうれしいことだと思います)。 ★ 参考資料 クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」、翔泳社 ジェームズ・アッターバック「イノベーション・ダイナミクス」、有斐閣 ★ お知らせ クリステンセン教授は現在、米国でこの9月に刊行予定の次作『The Innovator's Solution』の執筆作業中だそうで、日本の特許庁が来日を打診したところ、多忙を理由を断れてしまったようです。実は、この『The Innovator's Solution』、弊社で版権を取得し、年末頃に刊行予定なので、できればクリステンセン教授を来日させられればと考えています(実現未定)。これについては、追ってまた、ご連絡します。 それでは、また。 |
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